
人気店でも、チャージバックは起きます。ToGoで渡したはずの注文が「頼んでいない」と申し立てられる。店内で食べたお客さんの会計が、数週間後に引き戻される。カード会社に連絡しても、お金は戻ってこない。ニューヨークの飲食店のオーナーから、よく聞く話です。
連絡しても戻らないのは、連絡先が違うからです。この記事では、その仕組みと、店で先に打てる手を、決済会社(Toast、Square、Stripe)の公式ページをもとに書きます。
チャージバックは、お客さんが、カードを出した銀行に「この支払いは認めない」と申し立てると始まります。始まった時点で、売上は先に引かれ、決着がつくまで戻りません(Stripe)。Toastでは、通知の2〜4日後に、その日の入金から引かれます(Toast)。
店ができるのは、決済会社を通して、証拠を出すことだけです。結果を決めるのは、お客さんのカードを出した銀行で、決済会社には動かせません。Toastは、銀行に連絡することも、結果に影響を与えることもできないと書き、Stripeは、手伝いはするが決めるのは銀行だけと書き、Squareは、銀行の判断を早めることはできないと書いています(Toast、Stripe、Square)。
この仕組みで店が負けやすいのは、まず期限です。Toastは、銀行からの通知を受け取った日から15日で、過ぎるとお客さんの勝ちが自動で決まります(Toast)。Stripeはカード会社によって7〜21日、Squareの案内には7日とあります(Stripe、Square)。通知のメールが混んだ受信箱に埋もれて、期限を逃す店があると、Toastは書いています。請求関係の連絡先は、設定で、実際に見る人にしておけます。
しかも、一度出した証拠には、あとから足せません(Toast、Square)。出す前に、全部そろえる必要があります。そのうえ、銀行の判断までは、Toastで最大180日、Squareで最大90日、Stripeで2〜3か月かかり、その間、お金は戻りません。
手数料もかかります。Toastは1件15ドルで、勝っても負けても、争わなくても同じです。Stripeも、受け取った時の手数料は返さないと書いています(Toast、Stripe)。
では、争えばどれくらい戻るのか。Mastercardが支援したDatos Insightsの調査では、アメリカの加盟店が、異議を出したもののうち勝った割合は54%でした。ただし加盟店の自己申告で、カードを出す銀行の側は75%と主張しているので、数字は合っていません(Chargeback.io)。確かなのは、証拠を出さなければ、必ず負けることです。
店内では、チップを差すか、かざす。これを守るだけで、守りが大きく変わります。Squareは、ICチップの挿入かタッチ決済で受けると、不正の責任が、カードを出した銀行に戻ると書いていて、本人が目の前にいるのにカード番号を手で打つのは避けるよう、勧めています(Square)。手入力で受けた分は、ICチップの責任に関する申し立てになりやすく、Toastによると、争うだけでカードブランドの手数料が最大500ドルかかることがあります(Toast)。
店内で多いのは、二重の請求です。Toastは、そのカードで払った全部の取引の、品目つきのレシートを出すよう求めていて、ないとほぼ負けます。お客さんが途中で支払い方法を変えたら元の取引を取り消す、二重の請求に気づいたらすぐ返金する、というのも、Toastの勧めです(Toast)。
もう一つは、「知らない請求」です。明細に載る名前が、お客さんの知っている店名と違うと起きます。Stripeは、明細の表示が分からないことが、申し立ての理由になると書き、店名かサイトのドメインを使うよう勧めています(Stripe、Stripe)。会社名で載っているなら、いまの表示を、決済会社に確認してください。
なお、Squareは、店内の飲食の販売なら、領収書への署名は必須ではないと案内しています。品目・数量・金額の入った領収書と、返金やキャンセルの規定が、証拠になります(Square)。
オンラインの注文は、カードが目の前にない取引です。Squareは、この種類の申し立ては勝ちにくいと書いています(Square)。銀行は、店が出した証拠で判断するので、受け取りの記録の厚さが、そのまま勝敗に響きます。
先に打てる手は、注文を受ける時から、あります。Toastは、請求先の郵便番号を取ることを勧めています。受け取りの場では、ICチップで払い直してもらうか、カードの名前と合うIDを見せてもらうか、カードを見せてもらうか。チップが付く注文では、Mastercardのカード・ノット・プレゼントは、チップが20%以下なら守られる、という条件もあります(Toast)。Stripeを使うなら、支払いを「仮押さえ」で受けて、受け取りの時に確定する方法もあります。仮押さえの段階では、お客さんは申し立てられません。確定できるのは、7日以内です(Stripe)。お店のレジやオンライン注文の仕組みが対応しているかは、決済会社に聞いてください。
そして、受け取りの時の記録です。Squareが、受け取りの申し立てで証拠に挙げるのは、品名、受け取りの場所、日時、お客さんの署名、日時が残るQRコードかIDの確認、受け取って帰った、または食べたという説明、注文の時に同意を得た返金の規定です(Square)。つまり、「誰が、何を、いつ受け取ったか」が、あとから見られる形で残っていればいい。紙でも、タブレットでも構いません。
「注文していない」という申し立てには、別の材料が要ります。Squareは、ログイン情報、氏名、請求先の住所、電話番号、メール、端末やIPの情報、同じカードの過去の取引、注文のやりとりを挙げています(Square)。注文を受ける画面で、これらを取っておくことが、先の手になります。
常連のお客さんには、もう一つ強い手があります。Visaの「Compelling Evidence 3.0」では、過去に争われていない取引が同じカードで2件あり、それが120日以上、365日以内に前で、同じ人と示す情報が合っていれば、不正の申し立てに対して強い証拠になります(Visa、Stripe)。裏返すと、初めてのお客さんには使えません。初回の注文ほど、電話やメールでの確認と、受け取りの記録を、厚くしておく必要があります。
少額の注文は、争うより、先に返金したほうが安くすむことがあります。Stripeは、不正の疑いのある支払いを先に返金するなら、金額が受け取った時の手数料と同じくらいまでのものがいちばん割に合い、手数料より35%以上高い支払いでは、返金の効果が薄いと書いています。全額を返金した支払いは申し立てできませんが、一部だけ返金した支払いは、全額で申し立てられることがあります(Stripe、Stripe)。手数料が15ドルで、12ドルのToGoに不正の疑いがあるなら、返したほうが安くすみます。
AmexとDiscoverでは、チャージバックの前に「問い合わせ」(情報の確認依頼)が来ることがあります。Stripeは、これに答えずにいると、勝てない形のチャージバックに進みやすいので、すぐ答えるよう書いています(Stripe)。
商品が届いているのに、「届いていない」と申し立てられる。これも、よくあります。Squareが証拠として挙げるのは、追跡番号と配送の履歴、状態が「配達済み」であること、署名を頼んでいたならその署名、お客さんとのやりとりの画面、そして、品物と約束した配送先と予定日が入った注文確認のメールです。配送先は、州と市だけでなく、番地まで入ったものでないと、有効な証拠と認められません。やりとりの画面は、電話番号かメールが全部見える形で出します(Square)。
Stripeは、カードを出した銀行はリンクを開かないので、追跡ページは画面を撮って出すよう書いています。返金やキャンセルの規定も、リンクを貼るだけでは足りません。注文の前に全文を見せて、同意を取っておく必要があります。チェックボックスと規定へのリンクだけだと、証拠として退けられることがあるそうです(Stripe)。
先に打てる手として、Stripeは、郵便番号と住所を確認できた届け先に送ること、出荷を24〜48時間遅らせること、3Dセキュア(カードを出した銀行の本人確認)を使うことを挙げています。ただし、3Dセキュアで守られるのは不正の申し立てで、「届いていない」には効きません(Stripe)。
カードではなく、銀行口座から引き落とす決済(ACH)でも、似たことが起きます。「残高が足りない」(R01)や「口座が閉じられていた」(R02)は、引き落としの2営業日以内に戻ってくることがあり、「承認していない」(R10)は、60日以内です(Column、Modern Treasury)。
だから、高額の注文は、2営業日が過ぎてから出荷すれば、残高不足と口座閉鎖の戻りは、出荷の前に分かります。承認していないという戻りは、60日が過ぎるまで残ります。口座から集金する側には、戻りの率にも基準があり、承認していない戻りは0.5%、口座情報の誤りは3%、全体では15%です(Nacha)。
結論から言うと、あるにはありますが、飲食店の悩みの中心には、届きません。
ふつうのサイバー保険や、店舗の総合保険では、チャージバックは払われないことが多いと、保険の代理店は書いています。払われるのは、カード情報が漏れた時の対応費用や、決済業界の罰金などです(Prestige Insurance、Morrow)。「チャージバック保険」と呼ばれる商品も、主に不正利用の申し立てを払うもので、お客さんの不満や処理のミスによる申し立ては、対象外のことがあると、Stripeは書いています(Stripe)。
実例を見ると、Stripeの補償(Chargeback Protection)は、Stripe Checkoutで受けたカードの不正の申し立てが対象で、料金はStripeが決めて知らせます(Stripe)。Shopifyの補償(Shopify Protect)は、Shopify Paymentsの、条件に合うShop Payの注文が対象で、追加料金はありません(Shopify)。「届いていない」「商品が違う」は守られない、というShopifyのコミュニティの回答もあります(Shopify Community)。
つまり、届いているのに届いていないと言われる、受け取ったのに頼んでいないと言われる、といったお客さんの申し立てそのものは、保険で守られないことが多いのです。保険の担当者には、いまの契約に「チャージバック」か「決済カードの不正」の補償があるかを、決済会社には、オンライン注文の不正を保証する仕組みがあるかを、聞いておく価値があります。
カードを出した銀行が、不正の疑いを先にカード会社へ報告することがあり、Stripeによると、VisaとMastercardのこの「早期の不正警告」のうち、約40%が不正の申し立てになります(Stripe)。さらに、チャージバックになる前に店へ知らせて、返金で終わらせる仕組みとして、VisaのVerifiやMastercardのEthocaがあります。Chargeback.ioの解説記事によると、1件ごとの料金がかかります。飲食店が直接契約することは少ないので、お使いの決済会社に、扱いがあるか聞いてください。
オンラインの注文が多い店は、Visaの監視制度(VAMP)にも注意が必要です。決済業界の解説記事によると、店に対する「超過」の基準は、2026年4月に、2.2%から1.5%に下がりました(Justt)。数え方の細かい点は解説によって違うので、決済会社に確認してください。
最後に、割り切りの話です。争うには、手間も時間もかかります。ToastはMastercardの4808(承認)、4870、4871を、勝ちにくいので争うのは勧めないと書いています(Toast)。少額なら、先に返金する。高額なら、証拠をそろえて、期限の前に出す。この線引きを決めておくだけで、毎回悩まずにすみます。
ECの決済まわりの選択肢は、ECサイトのプラットフォーム5選に、カード情報を狙う攻撃の事例は、Adobe Commerceの欠陥の記事に、ECの作り方の最近の流れは、ヘッドレスECの記事に書いています。オンライン注文の画面で、注文の時に取る情報、返金規定の見せ方、確認メールの設計を見直したい方は、ECサイト開発のページか、お問い合わせからご相談ください。
