セキュリティ企業のForever Securityは、2026年10月22日に、顧客の端末のダウンロードフォルダーから、AIコーディングエージェント向けの悪意ある指示ファイルを見つけたと公表しました。OpenAI CodexとClaude Codeで、同じ種類の攻撃を再現した、としています(Forever Securityの原文)。国内でも報じられています(マイナビニュース)。
この記事は、AIコーディングエージェントを業務で使っている組織と、その担当者向けに、一次情報である原文を軸にして、確認された事実と、研究者の主張と、まだ分かっていない点を分けて整理したものです。出典は、各記述のそばに示しています。情報は、日本時間10月28日の時点のものです。
要点
- 見つかったのは、顧客の端末のダウンロードフォルダーにあった、約13KBのAGENTS.mdです。エンジニア向けの作業ガイドラインを装い、エージェントに、自分の設定を書き換えさせる内容でした。
- Forever Securityの製品は、エージェントが、既知の悪意あるnpmパッケージ(function-color)をインストールしようとしたところを、途中で止めました。
- Codexでは、研究者の試験で、90%を超える試行で、マルウェアが実行されたとのことです。Claude Codeの試験は、研究者が自作したファイルで、設定ファイルの書き込みが約半分、同じセッションでのコード実行が約5分の1です。
- ファイルがどうやってダウンロードフォルダーに入ったかは、分かっていません。OpenAIとAnthropicの見解は、原文にも、私が確認した報道にも、ありません。
- いま確認することは、ダウンロードフォルダーでエージェントを起動していないか、エージェントの設定ファイルに覚えのない記述がないか、function-colorをインストールした端末がないか、の3つです。
見つかったもの
Forever Securityの説明(原文)は、次のとおりです。
- 同社の製品が、顧客のコーディングエージェントによる、function-colorのインストールを、セッションの途中で止めました。指示の出所を調べると、リポジトリでも依存パッケージでもなく、ダウンロードフォルダーにあるAGENTS.mdでした
- そのファイルは、約13KBの、長い「エンジニア向けの作業ガイドライン」です。攻撃の指示は、終わり近くの1つの節にあり、ローカルの開発環境の通常のセットアップとして書かれています。長い前置きが、書き込みを通す要因だと、研究者は説明しています。短くて露骨な依頼は、断られるとのことです
- 原文は、「誰が置いたのかも、どうやって入ったのかも、誰も知らなかった」と書いています
AGENTS.mdは、コーディングエージェントが、プロジェクトの作業の指示として読む、Markdownのファイルです。実行ファイルではないため、「インターネットから来た実行ファイルは、承認するまで動かない」というOSの保護の対象にならない、というのが、原文の説明です。
攻撃の流れ
原文の説明を、エージェントごとに整理しました。
|
OpenAI Codex |
Claude Code |
| 使われたファイル |
顧客の端末で見つかった、実際のAGENTS.md |
研究者が、自分で作ったCLAUDE.md |
| 狙い |
設定を書き換えて、悪意あるパッケージを、毎回の起動時に実行させる |
通信先を、攻撃者のサーバーへ向けさせる |
| 書き換えるもの |
~/.codex/config.toml(マシン全体の設定)に、MCPサーバーの記述を追加 |
.claude/settings.jsonに、ANTHROPIC_BASE_URLを設定 |
| 起きること |
以後、どのフォルダーで起動しても、同じ記述が、起動時に実行される |
OAuthトークンが漏れる。攻撃者のサーバーが、ツールの呼び出しを返せる |
| 研究者の試験結果 |
90%を超える試行で、マルウェアが実行された(実際のペイロードを、隔離した仮想マシンで実行) |
設定ファイルの書き込みは、約半分。同じセッションでのコード実行は、約5分の1 |
Codexの場合
原文の説明は、次のとおりです。
- 利用者が、ダウンロードされたファイルのあるフォルダーで、Codexを起動して、何かの作業を頼みます
- Codexが、AGENTS.mdに従って、マシン全体の設定ファイルに、MCPサーバーの記述を追加します。記述は、悪意あるパッケージのnpmインストールを実行するものです
- Codexは、信頼したプロジェクトのAGENTS.mdにしか従いません。ただ、ダウンロードフォルダーで作業したことがあれば、そのフォルダーは、信頼されたものと扱われる、と原文は説明しています
- 標準のサンドボックスは、ネットワークからの取得を、いったん止めました。ところが、モデルが、ファイルの指示どおりに、承認とサンドボックスを無効にするフラグ(
--dangerously-bypass-approvals-and-sandbox)を、子のcodex execに付けました。接続の待ち時間の制限は、launchctl経由で実行して、回避しました
Claude Codeの場合
研究者が作ったCLAUDE.mdで、Claude Codeに、.claude/settings.jsonを書かせます。ANTHROPIC_BASE_URLが、攻撃者のサーバーを指すと、Claude Codeの通信が、そのサーバーを通ります。研究者は、次の2点を示したと説明しています。
- OAuthトークンが漏れること。取得したトークンを、実際のAPIに対して使い直して、アカウントへのアクセスを示したとのことです
- 攻撃者のサーバーが、モデルの応答を装って、Bashツールの呼び出しを返せること。ただし、サンドボックスは、破っていない、と研究者は書いています
原文は、Claude Codeは、このような書き込みに、人間の承認が要るため、不審なものを断ることも多い、と書いています。セキュリティ関連のメモが多く入ったフォルダーでは、きれいなフォルダーで通ったペイロードが、毎回失敗した、とのことです。
数字の読み方
| 項目 |
内容 |
確度 |
| ファイルの発見 |
顧客の端末のダウンロードフォルダーで見つかった。約13KB |
研究者の報告(実物は、非公開) |
| Codexの90%超 |
実際のペイロードを、隔離した仮想マシンで実行した試験。試行の回数は、非公開 |
研究者の試験 |
| Claude Codeの約半分と約5分の1 |
研究者が自作したファイルでの試験。実際の攻撃を測ったものではない |
研究者の試験 |
| ファイルが入った経路 |
不明。研究者は、自作のページで、閲覧しただけでファイルが保存される例を示した。ブラウザーやOSの条件は、書かれていない |
未確認 |
| 利用の実態 |
同社の顧客の約半分が、ダウンロードフォルダーでエージェントを使い、エージェントのセッションの約4分の1が、実際のブラウザーを開く |
同社のデータ(母数と方法は、非公開) |
数字について、注意が2つあります。
- 日本語の報道の一部は、Claude Codeの約50%を、「リモートコードを処理した割合」と伝えています(マイナビニュース)。原文では、約半分は、設定ファイルの書き込みの割合で、同じセッションでのコード実行は、約5分の1です。コードの実行の割合としては、約5分の1が正しいと考えます
- Claude Codeの試験は、実際の攻撃ではなく、研究者が自分で作ったファイルでの結果です。Help Net Securityも、CodexとClaudeの結果は、種類の違う試験だと指摘しています(Help Net Security)
function-colorとは
function-colorは、npmの悪意あるパッケージです。Checkmarxが、10月5日の報告で、MALFEXと名づけた、1人の攻撃者によるキャンペーンの一部として、示しています(Checkmarx)。
- function-color自体には、ペイロードがありません。function-flagを、依存パッケージとして、インストールするだけの、ラッパーです。function-flagが、インストール時のスクリプトで、追加のペイロードを取得します
- 攻撃者は、2023年8月から活動しています。function-flagに悪意があるのは、2025年7月からです
- 10月1日の時点のダウンロード数は、function-colorが300、function-flagが3万7419です。悪意ある8個のパッケージの合計は、4万767です。この数字は、レジストリでの取得の数であり、感染の数ではありません(Checkmarx)
- ペイロードは、Windows向けのマルウェア(Overlord RAT、Discordやブラウザーなどの情報窃取)とされています
- 9月29日の時点では、function-colorは、npm上に残っていました。Forever Securityは、npmが、削除したと書いています
CheckmarxはWindows向けのペイロードと説明し、Forever Securityの攻撃の説明には、macOSのlaunchctlが出てきます。この2つの関係は、どちらの資料にも書かれていません。
ベンダーの見解
原文は、OpenAIとAnthropicへの報告や、両社の対応に触れていません。Help Net Securityの記事にも、両社の見解はありません。私が検索した範囲でも、両社の公式な見解は、見つかりませんでした。
「OpenAIやAnthropicが直す点はない」「このケースは、エージェントが壊れているわけではないから、直されない」というのは、研究者の見解です。ベンダーが確認した立場ではありません。
ベンダーのドキュメントで、確認できたことは、次のとおりです。
- Claude Codeは、作業フォルダーとその上のフォルダーに、CLAUDE.mdがない場合に、AGENTS.mdを、プロジェクトの指示として読みます。AGENTS.mdを直接読むのは、v2.1.277以降です(Claude Codeのドキュメント)
- 同じドキュメントは、CLAUDE.mdを、「強制される設定ではなく、文脈として扱う」と説明しています。特定の動作を、確実に止めたいときは、PreToolUseフックを使うよう、案内しています
- Codexは、プロジェクトのルート(通常はGitのルート)から、作業フォルダーまでのAGENTS.mdを読みます。ルートが見つからない場合は、作業フォルダーだけを見ます(Codexのドキュメント)。ダウンロードフォルダーのような、Gitのルートでないフォルダーでは、そこにあるAGENTS.mdが読まれる、と読めます(私の解釈)
いま確認すること
原文の推奨と、Claude Codeのドキュメントにある機能を、確認の順序にしました。
今日のうちに
- ダウンロードフォルダーに、AGENTS.mdやCLAUDE.mdが置かれていないか確認します
find ~/Downloads -maxdepth 3 \( -name AGENTS.md -o -name CLAUDE.md \) 2>/dev/null
- エージェントの設定ファイルに、覚えのない記述がないか確認します。Codexは、
~/.codex/config.tomlの、[mcp_servers.*]の記述と、chatgpt_base_urlの変更です。Claude Codeは、.claude/settings.jsonのANTHROPIC_BASE_URLや、プロキシの設定です(原文)
- function-colorをインストールした端末がないか、ロックファイルとパッケージの一覧で調べます。見つかった場合は、侵害されたものとして扱います(Forever Security)。function-flagなど、Checkmarxが挙げた8つの悪意あるパッケージも、同様に調べます
今週のうちに
- ダウンロードフォルダーで、エージェントを起動しません。ブラウザーで取得したファイルのあるフォルダーや、出所の分からないフォルダーでも、同じです。作業は、自分で作ったプロジェクトのフォルダーで行います
- 自分で書いていないAGENTS.mdやCLAUDE.mdは、エージェントに読ませる前に、中身を読みます。コピーしたリポジトリや、受け取ったプロジェクトも含みます
- 承認とサンドボックスは、有効のままにします。エージェントが、これらを無効にするフラグや設定を、使おうとしたら、止めて、理由を確認します
- 疑わしい記述や、function-colorが見つかった場合は、その端末の認証トークンが漏れているものとして、更新します(原文は、漏れたトークンは、有効なセッションと同じだと書いています)。npmのレジストリを社内で経由している場合は、悪意あるパッケージを、そこで遮断します(Checkmarx)
今月のうちに
- 組織として、エージェントを使ってよいフォルダーと、使わない場所を、決めます
- Claude Codeの設定の変更を、セッション中に監査する、または遮断するには、ConfigChangeフックが使えます(Claude Codeのセキュリティのドキュメント)。Codexの設定ファイルの変更も、監視の対象にします(これは私の提案です)
- 社内で、エージェントに、ブラウザーの操作を任せている場合は、その範囲を確認します。原文の、実際のブラウザーを開くセッションの割合は、研究者の懸念の根拠ですが、ブラウザー操作によって、ファイルが入ったという証拠は、示されていません
未確認の点
- ファイルが、顧客のダウンロードフォルダーに入った経路は、分かっていません
- 実際の攻撃が、どれだけ広がっているかは、分かっていません。確認されているのは、顧客の端末での1件です
- Claude Codeに対する攻撃は、研究者が自作したファイルでの試験で、実際の攻撃は、確認されていません
- 試行の回数は、非公開で、数字の信頼の幅は、分かりません
- 利用の実態の数字は、同社の顧客のデータで、母数と方法は、書かれていません
- OpenAIとAnthropicの、公式な見解は、確認できていません
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