October 26, 2026

会員システムへの不正アクセスが相次ぐ――公表された事案の共通点と、JPCERT/CCが示した手口、いま確認す⁠る⁠こ⁠と

2026年9月から10月にかけて、会員やアプリの利用者向けのシステムへの不正アクセスと、それによる個人情報の漏えいが、相次いで公表されています。1000万件を超えるものもあります。JPCERT/CCは、10月8日に、国内の組織への不正アクセスについて注意喚起を出し、10月23日にも内容を更新しました(JPCERT-AT-2026-003⁠0⁠)⁠。

この記事は、利用者向けのシステムを運営している事業者と、その担当者向けに、公表された事案、JPCERT/CCが示した手口、いま確認すべきことを整理したものです。出典は、各記述のそばに示しています。公表の段階では、原因が調査中の事案が多く、事案ごとの原因を、手口に当てはめて断定することはできません。この記事でも、そのような当てはめはしません。情報は、日本時間2026年10月25日の時点のもの⁠で⁠す⁠。

要点

  • 今回の事案の多くは、会員管理システムやアプリのアカウントサービスへの不正アクセスで、件数は約90万件から、1000万件を超えるものまであり⁠ま⁠す⁠。
  • 漏えいが公表された項目は、氏名、メールアドレス、電話番号が中心です。多くの事案で、ログインパスワードやクレジットカード番号は、含まれていないとされています。ただし、これらの情報は、フィッシングやなりすましに悪用される可能性があり⁠ま⁠す⁠。
  • 公表の時点で、原因が特定されていない事案が多くあります。私が確認した範囲では、共通の原因や、同じ攻撃者によるものだという公式の発表は、見つかりませんで⁠し⁠た⁠。
  • JPCERT/CCは、確認されている手口を5つ示しています。既知の脆弱性の探索、API経由の不正操作、Metabaseの脆弱性、Webシェルの設置、AIペネトレーション基盤の悪用⁠で⁠す⁠。
  • JPCERT/CCは、一般の利用者向けのアプリだけでなく、BIツールや従業員向けの管理システムも、点検の対象にするよう求めてい⁠ま⁠す⁠。

公表された主⁠な⁠事⁠案

各社の公表と、報道にもとづく整理です。件数は、公表された数字をそのまま書いています。原因の欄は、公表されている範囲⁠で⁠す⁠。

事業者 公表日 件数 漏えいした情報 公表されている原因
タイムズカー 9月25日(第1報)、9月29日(第3報) 本人確認書類が漏えいしたアカウントが約160万件 運転免許証画像、現住所確認書類画像、学生証画像、家族確認書類画像(タイムズカー) 第3報のページには、記載なし。外部専門機関の調査結果を踏まえ、2週間程度をめどに、改めて案内する予定
焼肉きんぐ(物語コーポレーション) 10月5日 1078万8963件(登録者1080万8784件のうち) 会員番号、アプリ登録の氏名、メールアドレス、電話番号。ログインパスワード、生年月日、決済情報などは、含まれない(ビジネス+IT) 調査中。不正アクセスの確認は10月2日、会員情報の流出の確認は10月3日
ローソン 10月8日 ローソンIDが215万5345件 メールアドレス、氏名など(ScanNetSecurity、@IT)。ローソンアプリ予約でも、氏名、電話番号、クレジットカード番号の一部が漏えい(件数は、報道により異なる) ローソンは、アプリで利用者本人に個人情報を表示する機能が悪用され、その安全対策が突破されたと説明している(@IT)。具体的な手口は、公表されていない。不正アクセスは、ローソンIDが9月12日から14日
バーガーキング(ビーケー・ジャパン) 10月15日 約1118万件 会員ID、メールアドレス、氏名、電話番号、生年月日など。クレジットカード番号は保持しておらず、ログインパスワードの漏えいは確認されていない(Impress Watch) 会員情報を管理するシステムへの第三者による不正アクセス。不正アクセスは10月2日から7日、漏えいの判明は10月13日。詳細は調査中
GMOリサーチ&AI(infoQ) 10月5日(第1報)、10月14日(第2報) 89万4082件(第1報は最大94万8498件) 氏名、住所、生年月日、暗号化されたパスワードなど。ポイントの不正交換が611件(約286万9500円相当)(キーマンズネット) 報道によると、サイトで使用していたソフトウェアの脆弱性の悪用。10月2日以降に不正アクセスがあり、10月3日午前の会員からの問い合わせで判明した(ScanNetSecurity)

件数は、記録の件数です。重複を除いた人数とは限りま⁠せ⁠ん⁠。

共通して言え⁠る⁠こ⁠と

次の3点は、私見⁠で⁠す⁠。

  • 対象は、会員、アプリ、予約など、利用者が直接使うシステムです。多くの個人情報が、1つのシステムに集まっているため、1回の侵入で、件数が大きくなり⁠ま⁠す⁠。
  • 検知や公表は、早い事案が多くあります。例えば、焼肉きんぐは、不正アクセスの確認の3日後に公表しています。一方で、原因や侵入経路は、公表の時点で、分かっていないことが多いのが実情⁠で⁠す⁠。
  • 漏えいしたのが氏名、メールアドレス、電話番号であっても、フィッシングやなりすましには、十分に使えます。パスワードが含まれないことは、被害が小さいことを意味しま⁠せ⁠ん⁠。

JPCERT/CCが示した5つ⁠の⁠手⁠口

JPCERT/CCの注意喚起は、確認されている攻撃を、次の5つに整理しています。この注意喚起は、上の個別の事案と結びつけてはいま⁠せ⁠ん⁠。

  • ケースA(既知の脆弱性の探索):標的ごとに、さまざまなソフトウェアの既知の脆弱性をスキャンして、悪用を試みます。脆弱性ではなく、機器の管理不備を突く攻撃もあり、環境設定ファイルやバックアップファイルの窃取が、例に挙げられて⁠い⁠ま⁠す
  • ケースB(API経由の不正操作):一般に公開しているスマートフォンアプリを解析して、APIのエンドポイントやキーを特定し、画面操作では実行できない内部のAPIを狙います。ユーザー権限の変更、不正なアカウントの作成、NoSQLインジェクションによるアカウント情報の特定などが、挙げられています。ほかのシステムから窃取したAPIキーが使われることもあ⁠り⁠ま⁠す
  • ケースC(Metabase):SQLインジェクションの脆弱性(CVE-2026-72898)が、APIへの不正なリクエストで悪用されています。JPCERT/CCは、8月14日に、この脆弱性について、別の注意喚起を出して⁠い⁠ま⁠す
  • ケースD(Webシェルの設置):公開Webサーバーからアクセスできるアプリケーションサーバーに、悪意のあるJSPを含むWARファイルが置かれた事例があ⁠り⁠ま⁠す
  • ケースE(AIペネトレーション基盤の悪用、10月23日に追加):Cairn、CyberStrikeAI、ARTEXなどが悪用され、インターネットに公開されたWebアプリケーションや、WSUSサーバーが狙われて⁠い⁠ま⁠す

JPCERT/CCは、不審な送信元のIPアドレスの一覧も、ページに載せています。自組織のログに、これらのIPアドレスからのアクセスがないかを確認するよう、勧めています。ただし、一部は正規の利用の可能性があり、Tor出口ノードや、レジデンシャルプロキシ経由のアクセスも確認されているため、IPアドレスだけで判断せず、ほかの指標と組み合わせるよう、注意してい⁠ま⁠す⁠。

いま確認す⁠る⁠こ⁠と

JPCERT/CCが示した対策を軸に、確認の順序にしま⁠し⁠た⁠。

今日の⁠う⁠ち⁠に

  1. 利用者向けのシステム(会員、アプリ、予約、ポイント)を一覧にします。それぞれが、誰の、どんな個人情報を、何件、持っているかも書⁠き⁠ま⁠す
  2. 一般の利用者に使われるはずのないAPI、管理機能、BIツール、従業員向けのシステムが、インターネットに公開されていないか確認します。JPCERT/CCは、業務上不要なサービスや管理機能が公開されている場合は、公開を止めるよう求めて⁠い⁠ま⁠す
  3. 使っているミドルウェアや製品に、既知の脆弱性がないか確認します。例えば、Metabaseを使っている場合は、JPCERT/CCの注意喚起を確認⁠し⁠ま⁠す

今週の⁠う⁠ち⁠に

  1. APIに、リクエスト件数の制限をかけます。ログイン、パスワードのリセット、SMSの送信、検索など、悪用のリスクが高い機能には、個別に回数の制限を設けます(JPCERT/⁠C⁠C⁠)
  2. 非公開のAPIを含む、すべてのエンドポイントで、アクセス制御を行います。APIの利用者とトークンには、必要最小限の権限だけを与えます。トークンには有効期限を設け、漏えいが疑われるトークンは、すぐに無効にできるように⁠し⁠ま⁠す
  3. JPCERT/CCの一覧のIPアドレスについて、自組織のログを確認します。見つかった場合は、それだけで判断せず、ほかのログとあわせて調⁠べ⁠ま⁠す
  4. 不正なアクセスを検知する体制と、検知したときの初動の手順を、点検します。大量のアカウント情報の取得や、短時間の繰り返しアクセスに、気づける状態かを確認⁠し⁠ま⁠す

今月の⁠う⁠ち⁠に

  1. 保存期間を過ぎたデータや、利用目的を終えたデータを、消します(JPCERT/CC)。持っていない情報は、漏れ⁠ま⁠せ⁠ん
  2. 漏えいが起きたときに、利用者へ二次被害の防止を呼びかける準備をします。多要素認証の利用や、なりすましメールへの注意の案内を、すぐに出せるようにしておきます(JPCERT/⁠C⁠C⁠)
  3. 開発会社や委託先との役割を、確認します。誰が、どのシステムの更新、ログの監視、初動を担当するかを、決めておきます。例えば、焼肉きんぐは、開発会社や関係会社と連携して、対策を強化するとしています(ビジネス+⁠I⁠T⁠)

利用者の側ででき⁠る⁠こ⁠と

  1. 今回の事案で、メールアドレスや電話番号が漏れた可能性がある場合は、各社を装ったメール、SMS、電話に注意します。会社が、メールやSMSで、パスワードやカード情報を尋ねることはない、とタイムズカーは案内しています(タイムズ⁠カ⁠ー⁠)
  2. パスワードを使い回している場合は、変更します。多要素認証が使えるサービスでは、有効に⁠し⁠ま⁠す

未確⁠認⁠の⁠点

  • 各事案の原因は、公表の時点で、特定されていないものが多くあります。この記事は、原因を推測してい⁠ま⁠せ⁠ん
  • タイムズカーの原因は、第3報のページに記載がなく、確認できていません。第3報には、2週間程度をめどに、改めて案内するとあ⁠り⁠ま⁠す
  • ローソンアプリ予約の件数は、報道ごとに異なり、確定した数字を確認できてい⁠ま⁠せ⁠ん
  • GMOリサーチ&AIの原因(ソフトウェアの脆弱性)は、報道にもとづく情報です。同社の発表の原文は、確認できてい⁠ま⁠せ⁠ん
  • バーガーキングは、報道(Impress Watch)にもとづきます。同社の発表の原文は、確認できてい⁠ま⁠せ⁠ん

関⁠連⁠記⁠事

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